ブライト・アイズでおなじみ:ネオ・フォーク界の王子コナー・オバーストが新バンド(といってもメンバーはBEと被っているのだが)と共に制作したアルバム「Conor Oberst」。BEとは異なりいい意味でバンカラ~レイドバックしたロック・アルバムだけにリリース後初になる今回のロンドン公演はニュー・モードを体験すべく楽しみにしていたが、レディング/リーズ・フェスティヴァル出演消化後というタイミング→フェスで羽目を外しすぎたのか(?)ステージ上で「体調悪いんだ~」とこぼすほどコナーの咽喉は不調で、中途半端な内容に終わってしまったのは残念だった。
とはいえ場内は満杯&今回もソールド・アウトで、前方はコナーをヒーローのように崇拝する10~20代の少年少女(その大半がかわらしいカップル)でスシ詰め。彼の一言一句・一挙手一投足にキッズの小さな胸は張り裂けんばかりに反応しているし、「You Are a Legend!」の掛け声も盛んに上がる。新世代の声、あるいはニュー・ディランというメディアの与えた形容句をオーディエンスが鵜呑みにしている・・・わけではないだろうし、もうちょっと冷静に見守っている年配客もたくさん混じっていたのだが、若いファンが発する愛情と過剰な熱に接していると――ここ数年BEのショウに行くたび感じてきたことなのだが――盲目的なアイドル視/偶像化が進行しているのでは?との思いもよぎる。この晩の決して100%とは言えなかったパフォーマンスに対してもやんやの喝采が上がり、「コナーのやることなら何でも受け入れる」型オーディエンスが増える一方の状況を目の当たりにして、ちょっと不安を感じもしたのだった。まあ取り越し苦労なのだろうが。
総勢6人のバンドは、近年のBEのビッグなプロダクションに較べてぐっと絞られた印象。しかしネイト・ウォルコットがステージ右端にキーボードで控えているせいか、マイク・モーギス抜きでも危なっかしさは感じない。ウォームアップ的な序盤を経て「Cape Canaveral」の訥々としたモノローグからグルーヴが軌道に乗り始め、オープンで飄々としたドラム・ビートが引っ張る「Danny Callahan」を楽しそうにプレイするバンドを見ていると、ロード・ムーヴィー~あるいはウェスタン(ロバート・ベントンの「Bad Comapny」とか)のガタゴト揺れるキャラバンや平野を行く馬上の一群の光景が脳裏に広がってきて微笑ましい。このどこかクラシックで大陸的なノリは続くカヴァー(「マーク・ボウェンの曲」と紹介していたけど、元フェイントのマーク・ボウェンだろうか?)のザ・バンドやトム・ペティを思わせるロックンロールにも流れていた・・・のだが、うーむ、優れたアメリカン・ロックのコンボが持つ一見ルーズなのにタイトな奏者間のインタラクション=味のあるケミストリーまでは、まだバンドの中に生まれていない。この顔ぶれでツアーし始めてそんなに時間が経っていないので厳しい注文をつけるのはフェアではないし、Mystic Valley Band自体がBEよりも表現アウトレットとして緩い=コンセプトよりもプレイしていて純粋に楽しい音楽を追求したものであるのも承知しているが、どこか身の丈以上のシャツに無理して袖を通した若者を見るようなぎこちなさがあった。
その印象を強めていたのが、他のメンバーがヴォーカルを取る場面。バンド・ユニットであってコナーの一人舞台ではないと強調すべく花を持たせたのかもしれないし、実際問題コナーの体調のせいで誰かが合間にリード・ヴォーカルを担当して彼に咽喉を休ませなければいけなかったというのもあるだろう。しかしカントリー・ソウル風の楽曲や70年代ロックなど、オーソドックスなだけに核になる牽引力が弱いとフラットに陥るタイプの曲をこなすにはまだバンドが若く(かつ全員のプレイヤーとしての力量はまちまち)、彼らが歌い始めるたび「ううう、コナー出てきてくれないかな」とつい感じてしまうほど。アンコールで披露されたフレッド・ニールの「Everybody’s Talking」のカヴァーも、選曲のセンスは買うがリハーサル中の手遊びの域をまだ脱していなかったと思う。そういうアラや綻びも含めて見せてしまう人間的なところがコナーの魅力でもあるし、ファンに慕われる所以でもあるのだが、この晩はそうした脇の甘さが随所に飛び出す才気で光り輝く場面をくすませる形にもなっていた。あー歯がゆい。
しかし、輝く場面でのコナーはやはり他にはないテンションとエネルギーでこちらを掴む歌い手だった。「Lenders In The Temple」のようにマイナー調の地味な楽曲で深いエモーションを醸し出す様にはやはり引き込まれるし、弾き語りから始まって徐々にバンド・アンサンブルに膨れ上がり、ドラムのブレイクから豪快にロック・アウト~ハンド・マイク状態で踊りながら歌う姿がトム・ヨークっぽかった曲で盛り上がった中盤以降、コナーもバンドもエンジンがやっとあたたまった感。そこから待ってました★「Souled Out!!!」のディラン味とユーモアに繋げる展開も爽快で、ギター・ソロもコーラスもばっちり決まってこれは文句なしの大喝采だった。本編ラストの「Milk Thistle」では弾き語りにエレキが色を添える程度のシンプリシティで再び場内を圧倒。アルバムの中でも一番好きな曲のひとつなのでじーんときたし、酒飲んで喋ってばかりの客が多いロンドンのギグとは思えないほどシンと静まり返っていたのも嬉しかったな。
アンコールの声に応えまずはバンドが登場。ここからしばしコナー抜きだったので正直ダレたが(ごめん)、ブレイクを終えて姿を現したコナーがメンバー/バディ紹介を行い再び場内の温度も上昇。珍しくストレートなブルーズ曲に突入し赤い照明もバー・バンドなノリを演出、ドラム・キットの上に立ちネックを掲げギターを熱演する姿には在りし日のジョナサン・リッチマンも思い浮かんだが、やはりその後に続いた「I Don’t Want To Die(In The Hospital)」の若々しくストレートなロックンロールとエネルギーの爆発の方が、今のコナーには似合っている気がした。ジャネット・ワイスの可憐なコーラスが恋しくもあったけど(このバンドは女っ気ゼロ)、あれは今後ライヴで長尺ジャムに発展してほしいトラックです。そのまま勢いに任せ疾走感いっぱいに終わってくれても良かったのだが、ラストに控えていた「Breezy」でダメ押し。コナーがキーボードにスイッチしランディ・ニューマン~ジョン・レノン的なシンプルな弾き語りからスタートするこの曲、わななくヴォーカルで切ない歌詞を堪能させた後にバンド一丸となってノイジーなアウトロの熱演に昇りつめていくエピックな構成がとても印象深い曲で、揮発性の液体みたいにいきなり燃え上がることもできるコナーのパフォーマー本能が全開する形になった。こんな風に興に乗ってアンストッパブルな山火事状態~何かが憑依した状態になるとやはりすごい人だが、いかんせん今回はむしろ残る体力を振り絞ってのラスト・スパートだったようで、キーボードの上に立ち、ステージを転げまわりと体当たりパフォーマンスで激しいシャウトを聴かせた後コナーは退場、メンバーもひとりまたひとりと去っていき客電が灯った。
未消化な部分もあるライヴだったが、コナーの後半のがんばりは買うし、あのガッツがあれば今後ツアーを続けることでもっとアンサンブルもまとまりバンドとしての地力もついてくるはず。今の段階ではコナーの瞬発力に頼っている感じで、シビアなロック客も納得させるほどのパワーはまだない。せっかくBEを一休みして始めたプロジェクトなんだし、このフォーマットでしかやれないことを目いっぱいエンジョイして歌い手としての新たなヴォキャブラリー/スタミナを伸ばしていってほしい。
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