(パート1から続く)
あなた達は音楽性を同じくするハードコア・パンク・バンドとも数多く対バンしてますが、一方で色んなタイプのフェスに参加したり、多彩なバンドとプレイしていますよね。音楽のジャンルの壁をあまり気にしていないように感じるんですが。
うん、でも別に難しいことじゃあないよ。僕達はどんなステージに立っても気持ちよくプレイできるし・・・それに関してはヴォーカルと話した時に意見が一致したね。「俺達どんなバンドの後でもプレイできるし、そこで一切不自然さを感じたりしないよな」って。それってもう、ファックト・アップのコンテクストは普遍的で、どこに出しても通じるものだっていう確信があるか・・・あるいは逆に、このバンドには一切コンテクストってものがなくて、だからこそどこにでも出て行ける、そのどっちかじゃないか?と(苦笑)。
(笑)普遍的なロックだと思いますよ。
うん・・・まあ、これまでにファックト・アップをライヴ・シーンに売り込んできた人達、そしてそれを受け止めてくれた人達は、このバンドはどこにでもフィットするバンドだって認識を持ってるみたいで。だからこの間もノイズ・ミュージックのフェスに出演したし・・・アースと日本のKikuriってバンド、メルツバウの人がやってるバンドなんだけど、そのふたつに挟まれる形になって。
それは想像するだけでも重いっすね。
でしょ?ほんと・・・あのバンドはとんでもなかったよ~。彼らを見かけたんだけど、あの長い銀髪の姿で黙ったまま座っててさ・・・「オゲンキデスカ?」って声をかけようかと思ったんだけど、すごい目で睨まれて、ビビった(苦笑)。めちゃめちゃシリアスな人だよね・・・本当は日本のハードコア・バンドはお好きですか?クレイやブレイン・デス、チキンバウエルズはご存知ですか?って訊いてみたかったんだけどな。ともかく彼らに挟まってプレイすることになって、会場もその手の音楽のファンでみっちりだったわけだけど、オーディエンスは僕達の音をがっちり受け止めてくれた。小さなクラブでコアなファンを前にやるのももちろん魅力的だけど、一方で僕達のことをまったく知らない新しい人達の前でプレイして、熱狂してもらうのも全然OKっていう。今の僕達はすごくオープンだし、僕達の人生を面白くしてくれるものに対してなら何にだって腕を広げていくよっていう。
でも、さすがにヒップホップの対バンとかはやらないでしょ?
あー、そこで言わせてもらうと、この間南仏プロヴァンスでアトランタ出身のヒップホップ・バンドのサポートをやったよ。名前は忘れちゃったけど・・・メンバーのひとりはグッディー・モブの人で。
SOBMのジュネイロ・ジャレルの新ユニット(Willie Isz)じゃないかな?
そうそう!で、彼らのすぐ後出演したんだけど・・・2000人くらいの客が彼らの意のままっていうか、それこそ公園に集まった鳩の群れの中にポップコーン投げ込んだような、すさまじい盛り上がりで。だからこっちはアンプにスイッチ入れるまで「うへぇ・・・参ったな」って調子だったんだけど、プレイし始めた瞬間人々がまた集まってきて、すんごく受けが良かったし盛り上がってね。だから、うん、オープンに音楽に接してくれる人はまだまだいるってこと。僕達はこれまですごくラッキーだったんだろうね。どこでもそういう聴き手に恵まれてきたし、しかもブーイングを受けずにここまでやれたってのは奇跡的っていうか・・・。
だけどファックト・アップの音楽は基本的にメロディックですよ。
ああ、それはそうだと思う。そういう面は保ってるし・・・僕がドラムをプレイする時は、たとえどんなにエネルギッシュにプレイしていても、常にスピリットの面で3人のドラマーを念頭に置いて叩いてるんだ。彼らのバンドが音楽的にやっていたのと同じようなフロウを自分達の音楽にも持たせたい、いわば理想みたいなバンドがいるんだけど・・・ひとりはモーターヘッドのフィルシー・アニマル、ダムドのラット・スキャビーズ、それからFEARのスピッツ・スティックス。僕にとって彼らはメロディ、そしてロックのパワー、あのピュアなインパクトのふたつを兼ね備えた、すごい普遍性を維持していたバンドなんだ。最高だし、うん、だからそれが僕にとっての理想かな。
メロディの良さはもちろん、楽曲そのものがアンセミックでシンガロングもできる、そこがユニークだと思います。
うん・・・ピンク・アイズはああいう声の持ち主だし、彼は僕達の持ち出すマニアックなアイデアをなんだって自分のものにしてしまうんだ。おかげで僕達はどんな方向にだって行けるし、彼にしてみても自分自身の歌い方で歌っているのにインパクトとメロディのセンスを失うことがないし、そうやって上手く形になってきたっていう。だから僕達はすごくラッキーなんだろうし・・・あるいは単に僕達がとんでもなくブリリアントなバンドだってだけのことかもしれないけど?!(笑)
ファックト・アップはその域に向かってますよ!
そうかな?(苦笑)ありがとう。
だから、ハスカー・ドゥーみたいな進み方をしているバンドじゃないかな、と。初期からこうして音楽的に進化・変遷してきて、じゃあファックト・アップはいずれ自分達の「Zen Arcade」を作るのか?っていう。
なるほどね・・・それに関しては、実際「Hidden World」を出した時、マーブルズとジョークを交わしたんだよね。「これが俺達の『Zen Arcade』になるのか?」なんてさ・・・
・・・「でも、まだそこには達してなかったなー」みたいな?
そうそう!(笑)「惜しいっ、もうちょっとだった」っていう。でも、今度マタドールから出るアルバムを待っててよ!「Hidden World」は「Zen Arcade」ではないし・・・いや、あのアルバムだっていい出来だとは思ってる。僕もハッピーだしね。それでも・・・うーん、僕自身はやっぱり正直に認めなくちゃいけないだろうな。あれは、ちょっと不完全なところもあるアルバムだったんだ。5年前に書いた曲もあるし、10分の曲があるかと思えば2分台のピストルズみたいな曲もある。そこにシングルB面曲だの12インチ・シングルのB面曲とか、色んなものが一緒くたになってるわけ。もちろんそれはそれでありだったけど、新作はもっと・・・本物の「レコード」っていうか。ソングライティングからレコーディングまで同じ時期に一気にやっていったし、僕達にしてみれば新しいアルバムの方がもっとこう、大胆で力強いステートメント作になっているという。大胆というか、全員が力を合わせたまとまりのある作品になってるってことかな?新作を聴いてくれた人達の感想も、おおむねそういうものなんだ。「お前ら、やっと本当のレコードを作ったな」みたいな。
今回もレコードは見開きジャケットですか?
うん!(笑)。「Hidden World」と同じ人が今回もアート・ワークを担当してくれるんだ。
あれは挑戦的なアート・ワークでしたよね。ほとんどもう・・・サイケのレコードみたいで。
だよね?すごくクールだし・・・あのイラストを描いたのはジェイボーって奴で、西マサチューセッツのピッツフィールドって町の出身なんだ。あそこはほんと、最低も最低の場所。前回あそこでプレイした時はポルノ・ショップでライヴをやったくらいなんだ。ほんと、「クリスタル・メスに侵された町」って感じだったなあ。あ、クリスタル・メスには絶対手を出さないようにね、日本の皆さん!
(笑)はいはい。
で・・・ジェイボーはキツネだの鎖がかかった、肉屋の道具なんかも置いてあるすごーく妙な家に住んでて。変った奴なんだ、ほんと。そこにドノヴァン、キャプテン・ビーフハート、それとブルー・チアーに一時期いたランディ・ホールデンの「PopulationⅡ」、ラモーンズの1枚目、SST作品、X‐レイ・スペックスなんかのレコードと一緒にファックト・アップのシングルが5枚あって(笑)。でもすごくいい奴でね、2週間程度で「Hidden World」のアート・ワークを仕上げないと発売できないって状態だったところを救ってくれたんだ。マイクがアイデアをメールしたら、それに応じてスケッチをいくつか描いてきてくれて、それがアート・ワークになっていったんだよ。
あのジャケットを見て、「60~70年代のバンドのアルバム?」なんて誤解する人は間違いなくいるでしょうね。
でも、僕は特に60年代や70年代へのダイレクトなオマージュだとは思っていなくて・・・もちろんああいう見た目の作品だし、過去のレコードとの共通項は何かしらあるだろうけど、それよりむしろあのドローイングの中に含まれた様々なものがポイントなんだ。LPの中にこめられたアイデアだったり歌詞の中に流れている思考、バンドが成長させてきたイデオロジーとか色んなものがあそこに含まれているし、実際ちょっとしたメッセージも書き込まれてる。ひとつひとつの図像が曲の歌詞を象徴してもいるんだ。だから・・・まあ、そういう凝ったことをやるとほとんど自動的にサイケデリックな意味合いが付け加わっちゃうんだろうけど、僕達としてはサイケデリックよりインテレクチュアル(知的)と受け取ってほしいね。それに、これってファックト・アップっていうバンドが発表していくものと、バンド名とを切り離すものでもあるんだよ。たとえば、よく取材で「ファックト・アップって名前なわけだけど・・・その通り、君達は本当にFUCKED UP(めちゃくちゃ/ふらふら)な連中なの?ハハハハッ!」なんて質問されるんだ。でもそんなわけないし、だからあれは言葉からバンドを切り離すものでもあって・・・少なくとも僕はそう思ってる。そもそもこの名前、世界一妙で正常に機能してないバンドって意味でつけられたものなんだよね。今もそうだと言えるけど・・・。
演奏はばっちりですよ。
もちろんもちろん!(苦笑)音楽的に不全って意味じゃなく、社会の中で変わり者なバンドって意味だよ!だから・・・アート・ワークと歌詞、そしてそのコンテンツは、FUCKED UPという名前そのものよりずっと重要っていう。そうやって徐々に、中身が名前より先に来るようになればいいな、と。
そういえば知り合いに「最近なんか良いギグに行った?」って聞かれて「ファックト・アップがすごかったよ」って答えたら、「・・・バンド名がとんでもない!」って仰天されました。
(苦笑)。
「いや、名前はとんでもないけどそれ以上に深いバンドだよ」って答えたんですが、バンド名はもちろん、ピンク・アイズにしてもすごく派手で巨体のフロント・マンだし、彼の写真だけ見たら「この人/バンドには近寄らない方が良さそう」って感じずにいられないですよね。
うんうん!
でも実際は彼ってとてもナイスで気さくな人だし、ほとんどもう、かわいいとすら言えるキャラで(笑)。
(笑)そうなんだよねー、すごくナイスな奴だよ!でも、そこなんだ。彼はステージでプレイする時は自分はエンターテイナーに徹するってアイデアを厳守していてね。それこそ黒か白かってくらいはっきりしてるんだけど、彼に言わせると「人々はライヴを観に会場に足を運ぶために1日のうち3時間を犠牲にしてくれてる。それだけじゃなく、わざわざお金まで払って観に来てくれてる。だったら、俺は自分にできる限りのクレイジーなショウを彼らに提供するべきだろう」ってことで。
素晴らしいコメントです。
うん、この発言は彼の手柄にしておいてね!(笑)まあ・・・「自分の天職だ!」なんて言いつつ、実際あいつがやってるのってドラム・スティックをケツの割れ目におっ立ってて、額を切ってはダラダラ血を流してるようなもんなんだけどさ(苦笑)。「どうなったっていい、頭を打ったって構わない!」みたいな。
あははは!しかしあなた達のやろうとしていることには知的なエッジがあるわけで、そこで彼みたいなキャラがユーモアを持ちきたらすのは最高だと思います。
そうそう!
そうやって、バンドが陥りがちな自己満足のバブルからガス抜きしてるっていう。
まったくそう。というのも――もしガス抜きしなかったら、僕達とんでもなくもったいぶった、天上知らずに天狗なバンドになっちまう。だからしっかり地に足をつけてないといけないし・・・僕はこれまで何回も言ってきたけど、結局のところは自分も地の塩なんだって風に考えないとね。そうしないと世界一鼻持ちならないアホ野郎になっちゃうし、自分自身を笑い者にできる余裕がないとね。「エピックでサイケデリックな、知性派のパンク・ロック・バンド」とかなんとか・・・冗談でしょ?!そんな謳い文句、自分達で真剣に信じ込んじゃいられないよ!っていう(笑)。
(笑)曲を書く時は全員一緒に書くんですか?歌詞は主にピンク・アイズが書くの?
いや・・・曲の大半はマーブルズが書いているんだけど、僕が書くこともあれば、僕と彼がコラボしたり、グループ全体で一緒に仕上げていくこともある。歌詞に関しては、マーブルズとピンク・アイズの専門分野。マーブルズが書く方が多いと思うよ。ピンク・アイズが書く歌詞は、ちょっと笑える自己嫌悪の感じられるものだけど(笑)、もっと理路整然としていて字余り気味、日常から切り離された、パーソナルな面のやや薄い歌詞はマーブルズってことになるかな。
ちなみに、あなた達はメッセージ・バンドと言えますか?
んー、どうかな?歌ってることに中身はあるし、そこにあらかじめちゃんと考えが含まれてるって意味ではメッセージのあるバンドってことになるだろうけど、それを人々に届けていこう、外に向かって出していこうとしているバンドだとは僕はあんまり思わない。いや、メッセージはあるし、ちゃんと存在するんだよ。で、それを聴き手が受け取ってくれるか、あるいはそのメッセージを気に入ってくれるか/気に入ってくれないかは、僕達にとっても大事。でも、だからって「今晩は皆さん!さーて、今夜はあなた達が知らないようなことを教えてあげましょう・・・」みたいな調子の、いわゆるマニフェストを掲げるつもりはないっていう。まあ、そういうバンドになりかかった時期も以前はあったけど、今の時点での僕達は・・・そこらへんに関してはちょっと曖昧だね。
それは、最初に話していた「オーディエンスと対決するような音楽」をやってた頃ですか?音楽の持つパワーと歌詞の力を結びつけようとしていた?
ああ、でも聴き手との対決というのは・・・頭を壁に打ちつけたり額を切って流血するとか、そういうのも含めてお客に向かっていくってことなんだよね。たとえばピンク・アイズは、ライヴをやり始めた最初の頃からああいうことをやってて。マジに額がやばくて・・・頭でビール壜を割ろうとしたせいで、やっかいな包膿ができちゃったくらいなんだ。でもビール壜は割れなくて、跳ね返っただけ。逆にタンコブみたいになって、そこから傷が膨れていったんだよ。最終的には手術して除去してもらうしかなかったっていう(苦笑)・・・それも聴き手に挑戦するような要素のひとつだし、また今の僕達は、ラッキーなことにハードコア・バンドにしては風変わりな、この長い拡張型の曲をプレイするって道を選ぶこともできて・・・それ自体、聴き手と対峙するような行為なわけだよね?だから、うん、自分達がマニフェスト型のバンドだとは思わないな、僕は。
ピンク・アイズはステージに立った瞬間人が変るってタイプ?
んー、どうだろう?いつもあんな調子だけどね。まあ、歌うことになった瞬間、なんかスイッチが入っちゃうのは確かだけど。もっとワイルドになるしね。
彼は以前他のバンドでプレイしていたんですか。
うん、僕達みんな、ファックト・アップ以前に色んなバンドでプレイしていたよ(※ギターのマーブルズはRuinationにかつて在籍)。どれもシリアスなものじゃなかったけどね。彼もちょっとしたサイド・プロジェクトっぽいバンドでプレイした。
その頃からシンガーだったんですか?
デモどまりのバンドだったけど、うん、歌ってたよ。楽器をプレイしたことはないんじゃないかな?
なるほど。いや、すごく天然なフロント・マンだと感じるし、一体どうやってあのカリスマを伸ばし、会得したのかな?と。
だよね。でも、あれは本当に彼の人柄そのものの中に組み込まれているものなんだ。ああいうカリスマ性が、彼にとっては気持ちいい状態なんだね。それに彼はみんなをリラックスさせるのも上手だし・・・あれって何なんだろう?僕にも分からない・・・彼がああやってしょっちゅうトークしてるのって、もしかしたら彼の中にある不安の裏返しなのかもしれないな。でも彼は本当に素晴らしい話し手だし、色んなこともすんごくよく知ってる。だから(ステージで)喋るのも苦はないんだろうし、そもそも彼ってああいう巨体だから、何もしなくたっておのずと注目が集まっちゃうんだよ。で、彼はその注目を自分のモノにしてみせたっていう。以前の彼は、ステージで裸になるのをいやがってたんだ。というか、怖がってたんじゃないかな?
へえー?
彼が初めてステージで裸になったのは、ニューヨーク州アルバニーでライヴをやった時のことで・・・文字通り、着ていたシャツを観客に引き裂かれたんだ。
(爆笑)。
ほんとボロボロにされちゃってさぁ・・・イタリア製のかっこいいシャツだったんだけどね。で、彼は・・・僕は最初のうち、「あいつ、あまりにおっかなくてピーピー泣き叫んでるんだろうな」と思ってたんだけど、実際は大笑いしてて。それがこっちの耳にはシャウトに聞こえるくらいだったんだ、「アー!ア・ア・ア・アァッァ!」みたいな(笑)。で、その次にテキサスでライヴをやることになった時、彼はオーディエンスに一瞥くれて、次の瞬間ペロ!って具合に自らシャツを脱いでたっていう。
あはははは!吹っ切れたんだ。
それからというもの、彼はライヴの間はほぼ裸。95%裸で歌ってるっていう。マジに全裸ってこともあったんだよ。オーディエンスが・・・(思わず吹き出す)彼の穿いてたショーツを無理やり開けちゃって、更には・・・ショーツ越しに彼のナニに噛み付く奴までいてね(苦笑)。
・・・。
マジにイカれた連中だったな・・・あれは絶対クリーヴランドでのギグだったと思う。オハイオ州クリーヴランド、あそこはクレイジーな連中が多いから。
クリーヴランド!それはそうでしょう。
うんうん。ここでいちいち説明するつもりはないけど――クリーヴランドが世界一ロックンロールな街だってのは、これまでもよく言われてきたことだしね。ピンク・アイズが信じている説に、「抜群にクレイジーなロックンロール・シンガーはクリーヴランド出身」ってのがあるんだ。彼の考える史上最高にクレイジーなシンガー達ってのは・・・えーと、スティヴ・ベイターズ(デッド・ボーイズ)に・・・・そうだな、上から順にいくと、イギー(・ポップ)、ミック・ジャガー、スティヴ、ダービー(・クラッシュ/ジャームス)、それからH-100sっていう、クリーヴランドのバンドで歌ってたクリス・エルバになるんだけど、そう考えてもクリーヴランドってめちゃホットだし・・・素晴らしい音楽が生まれてきた場所だからね!80年代中期~90年代頭にかけてとんでもなくすごいハードコア・バンドがいくつか存在したんだ。90年代はハードコアが少し盛り下がったけど、それでもクリーヴランドにはいいバンドがいたし・・・あ、もちろん日本もね!だから、クリーヴランドの連中が日本のハードコア・レコードを聴き漁ってたってのは偶然じゃないんだよ。そうやって影響を受けながらグレイトなバンドが出てきたってわけ・・・ごめん、話が逸れた!(笑)。
大丈夫です。それにピンク・アイズは若いハードコア・キッズにとっての兄貴みたいなところもありますよね。
(笑)。
ヴァイナルへのこだわりなど、ハードコアの伝統や思想を若い子に上の世代が伝えていくって側面は常にあると思うし、そこに対してファックト・アップは意識的なのかもしれません。
なるほど。ガイド役みたいな側面は少しはあるのかもね。だけど・・・まあ、僕達のライヴの後、ロンドンの人達がこぞってピンク・アイズみたく額からダラダラ血を流して半裸のパンツ一丁、ビーサン姿でうろうろ歩くようになったら、そしたら何かが伝わったってことなんだろうけどね!
(笑)。でも、オーディエンスにしても心底から笑顔を浮かべて好き勝手にシャウトして暴れているし、ファックト・アップのギグの45分間彼らは暗黙のうちに同胞との連帯に参加しているような印象すら受けます。
そうそう!だから、それがパンクの美しさと言えるし・・・目に見えないところに流れている、知られざるものとして保たれてるパンクってことだよね。っていうのも、今パンクってすごく流行っていて、色んなものを飲み込んで巨大なものになってしまった。2008年におけるパンクって、冗談みたいに広義な、一般的なタームになってしまったわけ。そんな中で「見えない潮流」としてのアンダーグラウンドなパンクがまだ存在するのはとても重要だと思うし・・・何かを真剣に捜し求めている人々が見つけていく音楽なわけだからね。今だと・・・2008年における「パンク」ってものを考えると、パンクCDを買おうとしたら、それがマイ・ケミカル・ロマンスだったりするわけじゃない?いや、それはそれで別に全然いいんだよ。ただ、そういうメインストリームなものだけじゃなく、うっかりしてると気づかないくらい微妙なバイブレーションも存在するってのは大切なんだ。うん、だからオーディエンスはライヴではあの場の一部だし、僕達にしても常に誰もが歓迎されるように感じてほしい。そこで(オーディエンスとの)壁を破るのが、ピンク・アイズの存在なんだ。シンガーがあんな風体で、しかもほいほいシャツ脱いで、どうなっても構わない、やったれ~!って感じでステージからダイヴして、汗まみれで床を滑って転げ回って、キッズを肩車して・・・それって最高の気分になるもんでしょ。
はい(と激しく同意)!で、バンドのシンボル(ピンク・アイズの左腕にも刺青されている)、あれにはどんな意味が?
ああ、印形(=sigil)のこと?あれは単純にエフ。FUCKED UPの「F」を意味するロゴなんだ。ロゴのアイデアは・・・なんというか、ファックト・アップという概念を人々の頭の中に吹き込む、焼き付けるための道具っていうかな。やっぱりロゴはすごく偶像的なもの、それこそもう、アイコンとして一人歩きするようなものであってほしいわけ。見れば即「あっ!」って意味が伝わるっていう。いい例がブラック・フラッグの4本柱だろうけど、あの4本の線そのものに意味はないわけだよね。でも、誰もがあれはブラック・フラッグだって承知してる。バタリオン・オブ・セインツ(Battalion of Saints)のロゴとかもそう。シーク教の象徴か何かみたいで、それ自体は何の意味もないけど、すごくアイコニックだし、分かる人には即分かるっていう。だから僕達も、バンドの始まった頃あのロゴを色んな場所にまきちらそうとしたんだ。スプレー缶であのロゴを隣近所に書いたり・・・ノー・ウォーニングってバンドにいた友達が、売れ線のミュージック・ビデオの中であのロゴが書かれたTシャツを着てくれたりね。
サブリミナル・メッセージみたいですね。
そうそう。だからロゴはいわば、バンドとは別のところで、いろんな場所で常に働き続けてるもの、というかな。でも、あれは文字のFをかたどったものだよ。
分かりました。今日はありがとうございました!
こちらこそ。(日本語で)アリガトウゴザイマシタ!・・・あ、日本の友達にメッセージを伝えたいんだけど、いいかな?
もちろんもちろん、どうぞ。
じゃあ遠慮なく。ハロー!ソーイチ・ヒサタケ、イシヤ・タダシ・・・他に誰がいたっけな・・・・・・ナオに、あ、それとヤスヒロだ!元気?(笑)
ファックト・アップの公式ブログ
ファックト・アップを脱兎チェック!
今もっともエキサイティング&怒涛のライヴをやらかしてくれるトロント出身の6人組(これまで5人組として活動していたが、元ノー・ウォーニングのベン・クックが参加し現在はギター3本の6人)、ファックト・アップ。イカれたバンド名、巨漢ヴォーカル=ピンク・アイズの爆弾(肉弾?)パフォーマンスを筆頭に異色ででこぼこな佇まい、ソリッド&根源的なパンク・ロックの咆哮/猛攻で2年ほど前から(パンク・キッズだけではなく)ロック・ファンの間にも徐々に名前を浸透させつつある彼らだが、結成2001年とキャリアは長く、数多のシングル(多くが超限定盤7インチ。自主リリースも含む)やツアーを通じてハードコア・パンク界では既に熱狂的な支持基盤を獲得しているバンドだったりする。
そんな彼らが初のLP「Hidden World」(06年)を境に今やNMEやViceといったメインストリーム系のメディアにまで進出しているのは驚きだし、それをして昔ながらのファンから「セル・アウト」の罵り声が上がるであろうことは想像に難くない。そもそもエモのイメージが強いジェイド・トゥリーから「Hidden World」がリリースされたこと自体、ファンには驚きだっただろう。ストレート・エッジやハードコアの理念としてアンチ商業主義/非主流があるのは周知の事実で、実際現在の周到かつ狡猾に張り巡らされた音楽ビジネス・ネットワークに絡めとられることなくバンドがDIYなパンク精神をまっとうするにはイアン・マッカイ並みの鋼鉄の意志&継続力が必要になる。故にメインストリームを自主的に避けるバンドも多いだろうし、たとえば筆者自身がファックト・アップの存在を昨年までまったく知らなかったように、そこには毅然とした「アンダーグラウンド」と「オーヴァーグラウンド」の境界線、符牒のように崇拝される隠れたヒーロー達が存在するのだ。
グランジ、ネオ・パンク、エモ、メタルコアなど「ヴァリエーションとしてのパンク」が次々にメジャーに侵食されトレンドのひとつとして消費されてきた90~00年代を経て、それでも熱心なファンとコミュニティに死守されてきたとも言えるハードコアの牙城。しかしファックト・アップに興奮させられるのは、彼らがその文字通り「Hidden World」からの使者として壁をクロスオーヴァーするポテンシャルを持つバンドだからだ。ファスト&ラウドな初期シングルを通じダムドやラモーンズばりのメロディックなフックと急襲カタルシス、饒舌なギター・アレンジを磨いてきた彼らは、シャウト・スタイルのヴォーカルという強烈な個性をキープしつつ、その周りを囲む音楽性を徐々に広げてきた。パンクのバースト感とシンプリシティが真っ先に耳を捉えるものの、組曲風な構成、ヴァイオリンのパッセージ(ファイナル・ファンタジーの才人オーウェン・パレットの仕業)、コーラス、エピックに構築されたアレンジなど「Hidden World」は聴けば聴くほど多彩な表情を披露していく。そこに、たとえばハードコアから出発しつつヘヴィなドゥーム・サウンドを生み出したブラック・フラッグ、あるいはサイケデリアやジャズも吸収したハスカー・ドゥーといったSSTアクトに通じる拡張スピリットを感じるし、パンク=テクニックや音楽的知識は二の次というひとつの神話――バンドを続けるうちに、たとえ最初は下手でも多くの人間が素人レベルから卒業するものだろう――を打ち破ろうとする意志が覗える・・・と何やら小難しくなってしまったが、単純な話、ブリリアントなフロント・マンとタイトなバンドが織り成す純度100%のロックンロール爆風に揉まれ、忘我の果てに「生の勝利」を感じるのはただただ気持ちいい。昨年彼らのライヴで筆者がKOされたように、解釈は後からでもいいから、まずは彼らの音に全身で飛び込んで知られざる世界への扉を開けてみてほしい。そして、ファッションやスタイルとしてではなく生き方としてのパンクを貫く人々に出会ってほしい。
ネットに流布する様々な噂や風評、イメージや象徴を多用した観念的な歌詞、メンバー全員表立っては本名を明かさない、MySpaceページをいまだ持っていない(ルパート・マードック嫌いなんだろうけど)・・・などなどミステリアスでどこかスキャンダラス、掴みどころのないバンドというイメージがあるのは確かだが、それは聴き手を困惑させ煙に巻くことで、それでもへこたれずにバンドを追いその真価を見極めようとするガッツのあるファンを彼らが求めているからじゃないか?と思う。このバンドもまた、自分達のトライブ(種族)を生み出そうとしている連中のひとつなのだろう。しかし昨年マタドールとワールド・ワイド契約、いよいよ本格浮上の時期が到来した。セカンド・フル・アルバム「The Chemistry of Common Life」で日本デビューも決定!というわけで、最新7インチ「Year Of The Pig」にわざわざ「日本盤」まで作ってくれた(「豚年」ってちゃんと漢字で書いてあります:涙)日本愛好家/お寿司好きでもある彼らに初対面と相成りました。ライヴのすぐ後、汗だくにも関らず気さくにインタヴューに応じてくれたミスター・ジョーことジョナ・ファルコ(Drs)は、ステージでのアニマルなスティックさばきとは裏腹に快活&闊達で頭の切れる、そして何より音楽大好き!なピュアな情熱であふれる好青年。ファックト・アップと並行してCareer Suicideでも活動、日本ツアーも経験済みの彼(CSではギター担当)は、ツアー続きの人生の中であらゆるものに好奇心を全開して生きている=どこでもサヴァイヴできる生まれついてのトラヴェラーだと思う。昔恋した(でもあえなくフラれて大失恋しました・・・)かっこいいパンク少年の面影がだぶってきて、その「音楽さえあれば生きていける」若さ&無垢さに久々に胸がちょっと甘酸っぱくなったとさ・・・という感傷的な余談はさておき(別にジョナに懸想したわけではなく、「清々しい人だな~」と感動しただけです)、10月ドロップの新作を心して待て!というわけで、バンドの足取りを追うインタヴュー:パート1をどうぞ。
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まずバンドのこれまでのヒストリーを簡単に教えてもらえますか。
OK!
2002年頃に音源デビューですよね?
・・・だね、2001~02年あたりだった。で、核になるふたりのメンバー(ギタリストの10,000マーブルズとコンセントレーション・キャンプ)はもともと友達同士で、一緒にハードコア・バンドを始めようとしてたんだ。スタイルとしては、ライヴでオーディエンスに立ち向かっていくような、すごくダイレクトでエレクトリックなスタイルというかな。で、他のメンバーとリハを始めたんだけど、そのラインナップじゃ上手くいかなくて・・・そうこうするうちに今の顔ぶれが揃っていったっていう。まあ、今のこのメンバーが一緒になったってだけでも、実はすごい話なんだけどね。というのも、メンバー全員それぞれにどこかでうっすら繋がってはいたけど、ひとり、またひとりとこのバンドに参与していって、まるでちょっとした巡り合わせがそうさせたような感じなんだ。ほんと、この5人が同じバンドに一緒にいるってのはあり得ないような話でさ。以前から友達だったわけでもないし、お互いによく知ってたわけでもない。ほとんどもう・・・ある種作られたバンドみたいな(苦笑)、どっかで操られているような気すらするんだよ。もちろん実際はそんなことなくて、もっと自然なものだけどね!で、2001年にメンバーが固まって、デモを録音したりトロントでもギグをやり始めるようになり、友人のアドバイスで最初のシングル「No Pasaran」を、トロントから1時間くらいのところにあるすごく気味の悪いハミルトンって街でレコーディングして。でも、あそこは過去15~16年くらい・・・たぶん90年代半ばくらいからだろうな、パワフルなハードコア・パンク・シーンが存在する場所でもあって。だからまあ、地方に存在するパンクのメッカというのかな、とりたてて革新的なバンドやすごいものが出てきたわけではないけど、パンクを守り立てる気風のある土地柄っていう。ともかく僕達はそのハミルトンに向かって、有名な地元のコア・バンド、レフト・フォー・デッドなんかの作品が録音されたスタジオでレコーディングして・・・えー、ちょっと話が長くなってきたからもうちょっとはしょるね。というわけで僕達は最初のレコードをリリースして、そこから雪球が転がるように物事が発展していって・・・03年にはアメリカのバンドと最初のUSツアーをやって、シングルもどんどんリリースしていった。で、5、6枚シングルを切ったところで音楽的な方向性を変えたくなってきたんだ。色んなアイデアを組み込んで、曲の尺も伸ばした「Looking For Gold」(12インチ・シングル。16分の大作/04年)を録って・・・メンバー各人がこのバンドがどこに向かうのか、そこにもっと突っ込んだ要素をプラスしていったというか。で、その方向が「もっと速く」ではなく、むしろ「もっとワイドに広げていこう」だったという。まあ、バンドとして世界をツアーして回ったっていうのもあるのかもしれないな。分からないけど。というわけで、これがまあ僕達の「希釈したヴァージョン」のヒストリーってところ。
以前はスピーディ&ラウドな典型的ハードコアをプレイしていたわけで、じゃあファースト・アルバム「Hidden World」に入っている長い曲とかは本当に異例だったわけですね。
うん。(アルバム前の)シングルに関して狙っていたのは、すごく古典的なパンク・ロックのフォーマットをやろうってことで。あれは2曲入りのシングルでやれる、最大のインパクトを与えられるスタイルだよね。それに・・・爆発的な要素を持ち得るパンク・ミュージックみたいな危険物を、A/B面の両サイドに収めることができるってのは面白いよ。シングルだったら、ひとつのアイデアなりテーマを焦点をボカすことなく発展させることができるというか・・・大きな文脈を考える必要もないし、ポラロイド写真みたいに(パチン!と指を鳴らす)深く考えることなく、撮ったらその場でできあがり、ありのままの写真がゲットできるっていう。でも、アルバムに関して僕達の頭にあったのは、全体のアイデアの中に音楽そのものも含めていこうというもので。曲の長さを押し付けていくっていうだけじゃなく、人々に曲に集中するよう強いていくというか・・・聴き手に願わくは16分の間僕達の曲に集中することを余儀なくさせる、強制するというかな。ちょっとねじれた面だけど、もちろんそれだけじゃなくもうひとつの面として、僕達にとって音楽的なアイデアを発展・成長させていくってのは長い目で見れば興味深いことでもあるわけで。そうやってハードコア・パンクの音楽的な流れを続けていくんだって僕達は見ているし、たとえばそれをこれまでにやってきたバンドにアドレッセンツとかダムドみたいな連中がいるわけだよね。彼らは音楽の中で転調や曲の尺、音を重ねていく面なんかで実験してきたし、それって・・・パンク・ミュージックって、音楽的な幅の広さという点に関しては必ずしも良い点をもらえないこともあるわけで、その意味でもこういうチャレンジはやりがいがあるんだ。
CDのリリースはシングル・コンピレーション「Epics In Minutes」を除くと「Hidden World」が初めてだったと思いますが、なぜ7インチというフォーマットにこだわるんですか?
でも、僕達はレコードは今でもすごく重要だと思ってて・・・ヴァイナルってのはイージーにうっちゃれない物だし、音楽にとって一番大事なフォーマットなんだ。よし、強調しておくね。(声を大きくして)「ヴァイナルは、使い捨てできない、そして音楽にとってもっとも重要なフォーマットです」。ピリオド!
(笑)かつ、もっともアイコニックなフォーマットですよね。
そう、アイコニック!・・・視覚的な見地から見たってそうだし、美学そのものもそうだよね。要するにフィジカル、物質的な存在なんだ。実際レコードを手に持つことができるって点、そして音を聴くためにはいちいちターンテーブルの上に載せたり、色んなプロセスを経なきゃいけないところとか、それそのものが・・・100%具体的だし、レコードを手に持って、いちいち針を落すっていう手順は他にないグレイトなプロセスだよ。それを継続していくのは僕達にとって大切なことだし、パンクの7インチであれソウルの7インチであれサイケの7インチであれ、僕にはほんと、好きなレコードが山ほどあるから。まあ、ここで話してるのはどっちかというと僕個人の見解であって、バンド全体の統一した意見とは言わないけど・・・少なくともヴォーカル(=ピンク・アイズ)と僕はバンドの中でも熱烈なレコード・コレクターだし、だからヴァイナルの伝統を続けていくのはすごく重要なんだ。というのも、今の音楽はアナログからどんどん遠ざかっているし、それにまあ単純な話――君も賛成してくれると思うけど――ヴァイナル・レコードの方が断然音が良いしね!
ええ(笑)。でも、そうやってレコードにこだわるのってバンドにとっては不利でもありませんか。一部にレコード復帰の傾向もありますが、やっぱりあくまで熱心なコレクターのものであって、主流はデジタル派、ターンテーブルを持ってない人の方が多いし。
まったくその通り。それって先祖帰りみたいなものだし、2008年の現在、若い音楽購買層の大半は恐らくレコード・プレイヤーなんか使ってないっていう。もしかしたら親のカーステにまだテープ・デッキ、あるいはCDプレイヤーが装備されてる人もいるかもしれない・・・もしかしたら親どころか祖父母の車かもしれないけどさ。
(苦笑)。あなた達のファンはどうだと思う?
僕達のファンは、みんなターンテーブルを持ってるよ!ハードコアのファンってのは、なんというか、既にレコード収集熱に目覚めた人達から成り立ってるようなものだからね。僕がハードコアにハマり始めた頃・・・あれは90年代半ばか後半だったかな、僕はまだ26歳で若いけど、それでもターンテーブルは持ってたし。埃をかぶった親のプレイヤーを引っ張り出してね。っていうのも、それしかレコードを聴く手立てがなかったからさ。だから7インチで音源をリリースするわけだし・・・そんなに聴きたいんなら、レコード・プレイヤー買おうよ!っていう(笑)。それほどバカ高い買い物じゃないでしょ?もちろんレコードでのリリースは色々不利にもなるし、「どうやってアナログ盤をCDプレイヤーでプレイすればいいんだ??」なんて見当もつかないような人にとっては聴く気を挫くものでもある。でも、CDやMP3だらけの世の中でヴァイナルにこだわるのは他との差別化にもなるし、レコードはアートの媒体として優れたものだからね。たとえばシングル盤を例にとったって、実体のない「曲」が漂ってるよりずっといい。だから、それが主義としてあるっていうか・・・まあ、これもかなり要約した話なんだけど(苦笑)。
しかしそれもあって、「Hidden World」が出るまでファックト・アップは知る人ぞ知る存在でもあったと思うんです。
うんうん。
で、ジェイド・トゥリーに続き次作「The Chemistry of Common Life」はマタドールから出るわけで、これはかなり大くて国際的にも知られる、かつハードコア・パンクとさほど縁があるとは言いにくいレーベルですよね?マタドールと契約することにしたのはどうしてですか?
うん、それに対しては答えがふたつある。ひとつは・・・まずマタドールに関して言うと、やや言い訳っぽく聞こえるかもしれないけど、彼らは実はハードコアとコネクションのあるレーベルなんだ。クリス、パトリック、それからジェラルド・コスロイの3人があのレーベルの核なわけだけど――
もちろんレーベル最初期の段階では、彼らもパンク・ファンジンを作ったり、80Sハードコアと縁があったと思いますけど。
そうそう!ジェラルドはホームステッドにも関っていたしね。
ええ。90年代以降のマタドールは、しかしGbVやキャット・パワーといったアクトがメインですよね。
その通りだし・・・僕だってGbVは大好きだよ!(笑)でも、僕はああいうバンドも根本的にはパンク・バンドと看做しているんだ。それって、小文字のpの「punk」みたいなものも偉大な歴史の中に含むって風な考え方で・・・大文字の「PUNK」として、いわゆるモヒカンだの鋲打ち革ジャンだのがあるとすれば、小文字の「punk」ってのはそこに含まれる音楽的な広がりの一部なんだ。そう考えればマタドールもハードコアにちゃんと繋がっているし・・・もちろん分かりやすい形で、たとえば08年のマタドールがシッティ・リミッツ(Shitty Limits)のレコードを出してるってわけじゃないけど(笑)、元をただせば僕達が尊敬し、また共感する音楽と同じ布から切り取られたものってことだし、イコール僕達とも共通しているだろう、と。だからマタドールとは繋がりを感じているし、その前のジェイド・トゥリーに関して言えば・・・彼らと契約することにしたのは、バンドの限界を広げたいって思いが大きかったんだ。「Hidden World」に関しては前もってある程度アイデアを持っていたけど、出来上がってみたら、自分達がレコーディングの間に考えていたのとは違うものになっていた。かなり長い曲もあるし、面白いアイデアも色々あるじゃんっていう。で、これを普通のハードコアのレーベルから出したら、それこそこれまでとまったく同じ、「知る人ぞ知る」ファンの手に落ちて終わりってことになる。イコール、1000人くらいがアルバムを買ってくれて、しかもうち半数は「曲が長すぎる!」ってことでこのアルバムを忌み嫌うことになるだろう、と。
(苦笑)なるほど。
だからまあ、ある分岐点に達したっていうのかな、左か右のどちらかに進むしかないってことになったわけ。だから、バンドの何人かにとってはきつかったけど、他のメンバーにとってはそれほど苦もなくジェイド・トゥリーと契約することになって、彼らのおかげで僕達も次なる世界に進むことができたわけ。僕達をカルトな存在として守ってくれていた人達の中には、あの作品を気に入った者もあれば嫌った者もいた。と同時に、あの作品をきっかけに僕達を知った人もいて、そうやって物事が広がっていくうちに、僕達の音楽がマタドールの耳に届いたっていう。だからこれまでとプロセスとしては変らないし、自分達にとっては良かったと思ってる。
うん、別にその過程を否定してるわけじゃないんです。ただ、あなた達はすごく自主性のあるバンドだし、大きなレーベルに向かうのもちょっと意外で。たとえばツアーも自分達でオーガナイズできるような、世界的に広がるハードコアのネットワークを持ってるわけですよね。
うん、そうやってハードコアの道を守るのは僕達にとっては大事だし。っていうのも、そうじゃなくて他の人間に多くの面を切り盛りされるようになってしまったら、そのバンドは終わりだからね。他の人間の指紋でベタベタにはしたくないし――もちろん、ツアーのブッキングだとか色んな面で他人の世話にはなるけど、少なくともバンドの考え方なりアート・ワークに関して自分達自身がかなりの部分まで直接タッチするようにしておくのは重要だし、要するにエンジンに石炭を放り込んで燃やしていく役、物事を動かすのは僕達自身であって、他の誰でもないってこと。どんなバンドでも、ある程度のレベルまで行ったら「OK!」って感じで、そこから先は首を縦に振るか横に振るかだけ、そこで満足してしまうものだと思うけど・・・ただ、今の段階の僕達はまだDIYなバンド運営のやり方を目指し、そこと繋がっているっていう。それはこのバンドの色んな面に関して言えるし、以前に較べて今は助けてくれる手が増えたってだけのことなんだ。だからって、僕達にとってのバンドのあり方であったりバンドをやる上での理想像から飛躍したものではない、という。
分かりました。話を戻しますが、メンバーは全員トロント出身?
そう。
トロントのパンク・シーンについて聞かせてもらえますか?近年のカナダと言うと、私の中ではインディ/ポップ系、たとえばアーケード・ファイアやBSSみたいなバンドの印象が強いし、そんな中でファックト・アップ相当な異端児のようにも思えるんですが。
なるほどね、うん。カナダのインディ、インディ・ポップ・シーンに混ぜて考えるから目立つんであって・・・彼らとは似ても似つかない、むさ苦しくラウド、マニックな音をがんがん出してるっていう(苦笑)。いやでも、もちろんそこにも僕達が出てきた場所という文脈はあるんだ。というのも、トロントって実は歴史的にパンクで知られる、パンク・ロック・シティなんだ。もちろん、まずニューヨークがあるわけだよね。北米のパンク好きな連中の大半は、ニューヨークにたむろってた。でも、トロントってのはいわば、北米のもうひとつのロンドンみたいな場所でね。それは僕個人の解釈だけど、70年代後期のトロントにはビッグなパンク・ショウがたくさん訪れたんだよ。セインツ、デッド・ボーイズ、ラモーンズなんかどれもみんなツアーに来てね。以前エフェジーズ(Effigies)っていうシカゴの80年代初期パンク・バンドのインタヴューを読んだことがあるけど、彼らによれば70年代末のシカゴにはパンク・シーンが存在しなくて、だからヴァイルトーンズ(The Viletones)やダイオーズ(The Diodes)を観るためにトロントまで出向かなきゃいけなかったって話をしてて。それに、シアトルの連中がかつてはサブヒューマンズやディッシュラグス(The Dishrags)なんかを観にヴァンクーバーまでわざわざ出向いたって話も聞いたことがあるし・・・要するにトロントには長いパンクの歴史があるってこと。それに、ファックト・アップが活動を始めた頃にちょっとしたハードコア・パンクの盛り上がりもあったんだ。5、6のバンドが活動していてね。
それって、トロントが他のカナダ都市に較べて環境的に恵まれていないから?
いや、それはないな。トロントはかなりコスモポリタンな街だし・・・
タフなパンク・ミュージックの盛り上がりって、大抵他よりも恵まれないエリアで生まれるものですよね。
うんうん。でも、それはハミルトンの方が当てはまると思う。というのも、本当に陰気な街で。
どんな風に?
んー・・・いや、もちろん良い面もあるんだけど、基本的には今風な都市基盤に基づいた工業都市でね。なんというか、醜い街で、すごく抑圧的なエッジを感じるっていう。もちろん悪いところばかりじゃないしナイスな人達も出てきているけど、そういう一種の絶望感、プレッシャーって、常に外に向かう攻撃性の温床になるものだから。それに較べてトロントは、すごくコスモポリタンで大きな都市だし・・・もちろんダークなエリアもあるけど、そうだな・・・・・・パンクな・・・活気があるっていうか?!(笑)とにかくトロントは活き活きした時期にあると思うし、たくさんの人々、色んな考えの持ち主が新しいタイプの音楽をやろうとしてる。その中の小さな爆発を、ファックト・アップは引き継いでいるんだよ。(パート2に続く)
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