過去2作のクオリティを考えても、間違いなく優れた作品を出してくるだろう・・・と思ってはいたけれど、ここまで分かりやすく、かつポップに振り切ったアルバムになるとは予期していなかったTVオン・ザ・レディオのサード・フル・アルバム「Dear Science」。高度でユニークな音楽性およびインディな姿勢で音楽マニアからの信望も厚く、Pitchforkっ子のアイドル的に崇拝され愛でられてきた彼らだが、この作品でもうちょっと広い層のリスナーにまでクロスオーバーすることができるんじゃないかと思うと、とても嬉しい。それに値するだけの素晴らしいバンドだから。
1曲目「Half Way Home」のキャッチー極まりないパ・パ・パ・コーラスからオーガニックなダンス・グルーヴがドクドク流れ出し、トレモロ・ギターが降らせる白銀のブリザードを縫って官能的なファルセットとサブ・ベースが星間飛行に発進~。鮮烈なトランス・ポップのイントロに頭の中が白く燃え尽きたところで、滑り込んでくる「Crying」のエモーショナルな歌唱+同期するエスニック・リズム+勇壮なホーン・セクション(おなじみアンティバラスの面々)にたっぷり横揺れさせられた後は、本作でもっとも攻撃的なダンス・チューンにして初期TVOTRサウンドを思わせるダークな表情がやっと顔を出す「Dancing Choose」(ブロック・パーティーが嫉妬しそうなかっこいい曲ですね)、バロックなストリングスに癒されるソウル・ポップ「Stork&Owl」へ。「Remain In Light」期トーキング・ヘッズ直系の痺れるほどクールかつアーバンなアフロ・ビート曲「Red Dress」で再び思いきり踊らされた後、厳かに幕を開けるのはモダンなゴスペルとでも呼びたいスピリチュアルなメロディ&オーケストレーションがすさまじく沁みる「Family Tree」。前作の「Method」などもそうだが、シンプルな楽曲だからこそ波紋のように押し寄せてくる感動には打たれる。
この前半6曲ノンストップなつるべ打ちだけでもある意味お腹いっぱいになるけれど、アルバムは一切手を緩めることなく後半へ突入(まだアナログ盤は入手できていないんだけど、ここからB面に転じていただきたいところ)。TVOTRにニューロティックな陰りを与えてきた黙示録的な歌詞とパワフルな祝祭性が一体化しビルド・アップしていくリード・シングル「Golden Age」の神秘性、ストリングスとタイトなループが絡み合う「Love Dog」、「DLZ」でのコクのあるヴォーカル、後半の爆発に向け疾駆していく様があまりにスリリングな「Shout Me Out」(このギター・リフはマジに天才的)と続き、ラストの大団円にしてドラマティックなマーチング曲「Lover’s Day」のシスティーナ大聖堂を思わせるエピックな盛り上がりへと昇華していく。その包容力と暖かさを浴びていると、これまで月光を思わせる陰性の銀を鳴らしてきた彼らの音が、月を輝かせる側である太陽の黄金へシフトしたことを感じずにいられない。
トゥンディ・アデビンペとキップ・マローンというヴォーカル/ソングライター2名の持ち味をそれぞれ活かした歌重視の楽曲が続くこのアルバムは、スタイルや楽曲のトーンといった触れ幅~メリハリ/バラエティにおいてTVOTR史上過去最高の作品と言えるだろう。トゥンディ自身もインタヴューでもっとオープンでダンサブルな音楽、ダイレクトで分かりやすい曲を作るのが本作における彼(個人として)の指針だった・・・との旨話してくれたけれど、そこにはプロデュース業で多忙を極め続けるバンドのブレーン:デイヴィッド・シーテック(この2年間で、筆者が知る限りでもTVOTR以外に6アーティストの作品を手掛けているはず。もっといるかもしれないけど?)がソングライティングの骨格部からやや引き、メンバー各人のアイデアや貢献をより有機的に反映させていった結果という面もあるんじゃないかと感じる。
最初期はデイヴィッド&トゥンディのデュオとしてスタートし、キップ、ジェラルド、ジャリール・・・とメンバーが増えていったこのバンドには、擬似ファミリーとしての面と同時に、音楽という媒体を舞台にしたコレクティヴ~共同プロジェクト的とでもいうべき側面がある(本作でもかなりの数のアーティストがゲスト参加しているように、そこにはロック・ミュージックの世界にありがちなキャラクター重視の傾向やセクト主義を取り払い、アーティスト同士が流動的に協力し合うポスト・パンク的なコミューン思想~音楽至上主義が感じられる)。キップも英音楽誌の取材でTVOTRは彼にとってもっとも実りのある表現の場と話していたけれど、そうした一種の「実験場」――自分のインプットが他のメンバーのフィルターを通して化学変化させられるプロセス、および最終的な変容そのものも彼らは楽しんでいるのだろう――としてTVOTRが存在するとしたら、スタジオ・プロジェクトからより本格的なライヴ・アクトへとスコープを広げてきた結果バンドの各パーツがもっと大胆に腕を伸ばせるようになり、これまでも内在してきた数々のエレメント(ロック、ポップ、ファンク、ソウル、ダブ等)が3作目にして真の意味でシナジーを起こし始めた、ということなのかもしれない。どんなタイプの音楽をプレイしてもTVOTRはTVOTRにしか聞こえない、という自覚・自信。それが本作の恐れを知らぬ大らかなポップネスに繋がっていると思うし、アウトサイダーと見られがちだった彼らの「音楽がまずありき」なアティテュード――もちろん正論なのだが――を共有する若手バンドが(少なくともUSシーンには)増えてきたタイミングで、このカリスマティックな5人組が文字通り五感を刺激するパワフルなステートメント作を打ち出してくれたのは心強い。
そうやってより輪郭がはっきりした多面的かつ複合的なサウンド・マトリックスをアルバムという器の中にビシッと統合してみせたデイヴィッド・シーテックの本作における秀逸なプロダクションにしても、音色やテクスチャー、ミックス/分離といったディテールへのこだわりだけではなく、優れたアンサンブル・キャストを総指揮していく映画監督のような大らかな表情を見せている。というか、これだけ名優揃いのバンドなら映画を作るのも楽しくてしょうがないのだろうな。ちなみにこの作品、ちょっと奮発してぜひいいステレオで爆音で聴いてほしい音(自分で持ってない人は、高価なハイファイ・セットを持ってる友達の家に押しかけましょう)。聴いてるうちにちょっと頭がクラクラしてくるくらい感覚を聾する緻密でストレンジなサウンド塑像には、ぎりぎりまで削ぎ落としたポーティスヘッドの「Third」とは逆の意味で圧倒されるはず。プロダクションとエモーション、楽曲のクオリティとインスピレーションすべての面において、アート・ロックのバーはこの作品でまたひとつ上に刻み目を上げた。
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