ソングライティングの良さと奥深いサウンドが絶品だったグリズリー・ベアのセカンド「Yellow House」は、2006年パーソナル・ベストの1枚だった。それだけに現在GBのメンバーとしても活躍中のダニエル・ロッセンのユニット:デパートメント・オブ・イーグルス久々の新作(にして4ADデビュー)になる本作の到着を楽しみにしていたのだが、育ての親IsotaのレーベルHPでもアナウンスされていたように、DOEのファースト「The Whitey On The Moon UK LP」からはかなりシフト・チェンジしたサウンドになっている。
その「Whitey~」は不思議な魅力を放つ作品だった。メロディ・ラインそのものは素朴で、たとえばベータ・バンドの無邪気さや初期ピンバックに通じるミニマルなトーンが織り成す瞑想的なフォーク・ソングは実に美しい。しかし聴いているうちにアレンジがどんどん変化していき、最終的には脱構築されたエレクトロニカに変貌したり(シングルとしてカットされ、WHY?やOctaviusもリミックスした名曲「Sailing By Night」は、アウトロにYMO「ライディーン」のリフがチープに顔を出して笑ってしまう)、また合間にエレクトロニック・コラージュ曲やループ、ブレイク・ダウンやサンプルが放り込まれたかと思えばピアノのパッセージが繊細に鳴り響き・・・と、音の情景が次々スライドしていく。フォークトロニカというタームがいちばん近いのかもしれないが、ランダムにつぎはぎされたビートとちゃんぽんなアイデアの混在に耳を傾けていると、この人達は敢えてカテゴライズをすり抜けていきたいのだろうなと感じるほどだし、曲タイトルやメンバーの仮名からもどこまで遊びでどこからが真剣なのか判然としない、掴みどころのない印象が残る(DOE自体ダニエルがGBに加入して以降音沙汰がなくなり、アクティヴなバンドなのか曖昧だった)。しかしその逃げ水のような音が聴いていて気持ちいいのは間違いなく、「このバンドは何者?」等々深く考えることなくひとつのオーディオ・ドキュメントとして感覚的にエンジョイすればOKなのだろうという結論に達したのだった。
それもあって2枚目が出ると知った時は「続いてたんだ」と意外に感じたし、バンジョーやピアノなど生音を中心に、まとまりのあるソングライティングを聴かせる肝心の作品内容にも二度びっくり。すごく平たく言うと、GB化が進んでいる。エド・ドロストを除くGBの2名が演奏に参加しているからそれも不思議はないかもしれないが、ビートやループ、サンプリングなどエレクトロニカなエレメントがトッピング/飛び道具としてではなくより洗練された形でアレンジの中に溶け込んでいるため、別のバンドのようにすら聞こえると思う。よく聴けばダニエルのゆかしいメロディ・センス(→マジ癒されます)という本質は揺らいでいないものの、音の感触は古きよき時代の豊饒なアメリカン・ポップ再解釈寄りに変化している。そこでモチーフになっているのは、おそらくヴァン・ダイク・パークス~初期バーバンク・サウンド。GBの現時点での最新作「FRIEND EP」でもその傾向は強く出ていたし、あの作品に参加していたダーティ・プロジェクターズのデイヴィッド、ベイルートのザック、アトラス・サウンド(ブラッドフォード・コックス)、バンド・オブ・ホーセズらと同様、DOEもまた現代の感覚と複数のプロセス回路を通じて「ディスカバー・アメリカ」――あるいは「リコンストラクト・アメリカ」?――しようとしている若手と言えそうだ。この作品では⑤「Around The Bay」から⑧「Waves of Rye」にかけての中盤の流れが特に秀逸で、「Song Cycle」や「Randy Newman」を彷彿させる実験性、クラシックのアレンジとポップなメロディとが落ち着いたトーンの中に見事に調和している。映画サントラみたいに大袈裟でドラマを主張するシンフォニック・サウンドではないが、シンプルな曲にも細部まで丁寧に釉薬が施されて聴くほどに味が出るし、もうちょっとアヴァンギャルドなサウンド造形を聴かせるGB作品より、人によっては親しみやすいアルバムかもしれない(とはいえ、ゴフィン=キングをカヴァーしたりドゥーワップやスタンダード音楽のチャームを消化したエドのソングライティングと歌声は、別格の普遍性と独特の色気を備えているのだが)。
5年ぶり、しかもその間GBがブレイクしたこともあり、基本的には宅録ユニットだったDOEのヴィジョンにも影響が及んだ結果なのかもしれないが、本作のプロデュースを手掛けたクリス・テイラーのマジック・タッチも見逃せないと個人的には感じる。GBにインタヴューしたことはないし、その内面構造~バンドの力学を把握しているとまでは自分でも思わない(アニマル・コレクティヴをひとつの象徴とするニュー・アメリカ勢は、マルチ・インストゥルメンタリストやソングライターを複数抱えていて可変的なので余計分かりにくい)。しかしエド&クリス・ベアの2人だった頃のGBのファースト「Horn of Plenty」とクリス・テイラーとダニエルが参加し4人組になってからの「Yellow House」とでは、その世界観とサウンド・デザインの緻密さに格段の差がある。その変化の要因をひとつに絞るのは不可能とはいえ、「Yellow House」以降プロデュース/レコーディングを一手に引き受けているクリス・テイラーがすごいポテンシャルを秘めた音楽家であるのは間違いない。GBのライヴを初めて観た時、ある意味楽曲以上に魅了されたのが彼の緻密なサウンド・ディレクションとこだわり、ライヴでも隙のない鬼のような(笑)仕切りだったのだけれど、あのテンションの高さに匹敵するヴァイブを出しているのは(筆者が知る限りでは)デイヴィッド・ロングストレスくらい。彼のアレンジやテクスチャリングに対する鋭いセンスとダニエルのクラシシズムは、GBそしてDOEを通じて深化を続けている。次のGBのアルバムがとても楽しみになった。
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