音楽の世界には知らないことが数限りなくあるものだなあ・・・と、このアンソロジーを手にして殊勝な思いに圧倒されると同時に、妙に向学心が燃え上がりもした。「IT‘S ALL POP!」の泣けるスローガンを旗頭に、1978年から81年までリリースを続けたTITAN。カンザスの片隅でパワー・ポップの灯りを灯したカルト・レーベルの、これは知られざる足跡を振り返るナイスな2枚組コンピレーションである――なんて書くと、おそらく熱いパワー・ポップ・マニアからは「TITANも知らねえのかお前は!」とドヤされるのだろうが(バッド・フィンガー、ビッグ・スター、ラズベリーズ、チープ・トリックあたりの基本中の基本くらいしか知らないんで、口が裂けても〝マニア〟なんて自称できないっす・・・すんません)、当時悲しいくらい売れず、リリースもたった8枚で天命をまっとうしたというこのレーベルの存在を筆者が知らなくても許されるんじゃないだろうか。それはともかく、シカゴのマニアックな再発レーベルNumero Groupのおかげでこうして比較的手軽に知られざるTITANの魅力を味わえるようになったのはいちポップ好きとしては素直に嬉しい話である。
本作に寄せられたTITANの短くも苦闘続きの歴史を綴った40ページの労作ライナーノーツ(写真も惜しみなく掲載されてます)によれば、このレーベルはザ・ムーヴとレフト・バンクのシングル(らしいねえ)をきっかけに知り合ったロックンロール好きな音楽ファン2名=トム・ソレルズとマーク・プレルバーグによって、まずファンジン「Teen Titans」の形で始まった。グレッグ・ショウのBOMP!やブルース・パヴィットのサブ・ポップと同じパターンで、やがて地元中西部のタレントをレコーディングし、自分達の手で売り出す方がファンジンやるより楽しいということでインディ・レーベルに発展。ストレートなAMポップへの愛/60年代志向をエンジンに、カンザスから45回転のロックンロール・ラヴレターが世界に発信されていった・・・と書きたいところだが、メディアの評価は概して良かったものの完全な素人~流通網などコネのなかったTITANの販売ルートは主に通販、というセールス・パワーの弱さがネックになり、シングルをプレスするたび行き場のないデッド・ストックの箱がオフィスに山積みになっていくという切ない状況に陥っていく。パッケージにこだわってお金をかけすぎだったというのも音楽コレクターが運営するレーベルにありがちな落とし穴だし、アルバム・ロック時代にシングルにこだわったのもポップ学徒ならではの歴史へのリスペクトが災いする結果に繋がったのだろうなと感じる(知り合いの激音楽ファンに、私財を投げ打ってレーベルを立ち上げたものの失敗~借金地獄に陥った人がいるのでここらへんは読んでいてとても悲しかった)。ネットの発達で近年はずいぶん良くなったとはいえ、カンザスやネブラスカといった米中西部は音楽地理的に言って決して恵まれないエリア。そんなカルチャー無風地帯に「シーン」をDIYで発起するという志は尊かったものの、そのハンデを克服するだけのタイミングや運といった変数要素が重ならなかった・・・というのは、別にTITANに限った話ではない。中古盤屋の「1枚100円」コーナーをチェックすれば、夢と希望を込めた盤が藻屑と消えたアクトはインディ/メジャーに限らずいくらでもいるのだし。
それでもTITANがカルト・レーベルとしてパワー・ポップ好きにディグされ、30年の歳月を経てこうしてCD再発までされたのは、この音源から立ち上るマーケティングも会計士もへったくれもないピュアな音楽への愛ゆえだろう。08年の(シニカルで醒めた)視点からシビアに見れば、イメージ・コンシャスな当時のニュー・ウェイヴ勢に較べすさまじく垢抜けない所属アクトのルックス(ロンドンブーツ着用:ボーイズのグラム調からネクタイ+ジャケットのザ・ナックもどき、イアン・ハンター型ロッカーまで見ていて泣けてくる)、音質~レコーディングのしょぼさ、スウィートでメロディックながらパンチやフックは薄味な曲が多い点など、脇の甘さ~カルトがカルトたる所以を色々突っ込むことはできる。しかし現代的な論理武装をいったん解除して素直に耳を傾ければそこにはオールド・スクールでシンプルな、誰でも飛び込めるロックンロールの楽しさがそこかしこに詰まっているし、ブリティッシュ・インヴェイジョン、パブ・ロック、パワー・ポップ、ニュー・ウェイヴと呼び名は様々に変わりつつも愛されてきたリッケンバッカーのつややかな音色と精一杯のコーラス、泣きのあるしゃくりあげ系メロにはやっぱり「いいねー」としみじみしてしまう。先述したように音質にバラつきがあるので、この2枚組:42曲(未発表トラックも18曲収録)を一気に聴いていると逆にそのペナペナ感が際立って古臭く思われてしまう気もするし(そこが味でもあるんだけど、たぶんある程度パワー・ポップを聴いた人じゃないとその「ヘナいからいい/チープだけど泣ける」感覚はピンと来ないのかもしれない)、ここはひとつドーナツ盤を1枚ごとにターンテーブルに乗せる感覚で個人的なお勧め曲をピックアップしていくことにしましょう(楽曲の多くがNumero Groupのウェブサイトで試聴できますけども)。
RAVE SIDEと題されたディスク1では、①Shark/Gary Charlson→ドワイト・トウィリーのカヴァー。「ナ・ナ・ナ・ナ・ナナナ・・・」のコーラスとギター・リフが抜群。②We‘re Dancing Again/Boys→見た目はボウイとキッスのあやしいハイブリッドなバンドながら、メロの甘さとタイトなアンサンブルはたまりません。④Arlis!/I Wanna Be→TITANのエリック・カルメン?ホットというか、一歩間違えると暑苦しいその歌声はラズベリーズ好きなら一聴の価値あり。⑤Radio Heart/Secrets*→決めリフが冒頭から気前よく爆発する、コンパクトでリズミックなポップ。スティッフ在籍と言われても信じられそう。⑥(Baby) It’s You/Boys→もろにロネッツなタイトル以上に気になる、合間に挟まれる「アハー!」のコーラスはゾンビーズ「ふたりのシーズン」へのオマージュなのか?メロは抜群だがもうひとひねりアレンジに工夫がほしかったところ。⑦Drink A Toast/Millionaire At Midnight→イントロのギターが泣かせます。モット・ザ・フープルやシン・リジィが好きな人にお勧め・・・というのは⑨Uniform/Secrets*も同様で、ちょい地味だけど沁みてくる曲。⑰I Think About You/Scott McCarl→後にラズベリーズに参加するスコット・マッカールのこの曲は、マッカートニー風ポップ(エミット・ローズ等)に弱い人にはジャストでは?⑱Radio City/Bobby Sky→バブルガム万歳。⑲You‘re Bad Too/Boys→サックスが入ってR&Bロックンロールもこなすボーイズ。擬似ライヴ録音ってのもナイスです。ラストGoodbye Goodtimes/Gary Charlson→ピアノやサックスにボックス・トップス「Neon Rainbow」なんかが思い浮かぶこれまた佳曲&ツイン・ギターもいい味・・・と書きつつ、美メロにあのハスキーなソウル声という一見ミスマッチなコンビネーションがアレックス・チルトンの魅力なのだなぁと改めて思ったり(ギャリーさんの声は、きれいだけどインパクトは弱い)。ちなみにレーベル・オーナーのふたりはこのサックス・パートにポール・リヴィア&ザ・レイダーズのマーク・リンゼーを起用しようと画策したとか。実現はしなかったそうだけど、ほんと、コテコテのポップ好きならではですな・・・。
FAVE SIDE=ディスク2では①It‘s Your heart Tonight/Secrets*→リフのエスカレーションから掴みのいいシャープなサビ・コーラスへなだれこむ展開がお見事。③Real Life Saver/Gary Charlson→TITANの記念すべきファースト・シングル。音質とヴォーカル・パフォーマンスにもう一声ほしいところだけど、流麗なメロディがはまるミッド・テンポのロッカー。⑨Not The Way It Seems/Gary Charlson→バーズ好きという本領発揮なギター・サウンドとサーフ・ロックなリズム&コーラスがいい相性。⑩On A Night Like This/Boys→これまたマッカートニー味のいい曲。途中でアレンジのアイデアが尽きたか?とも感じさせるところはご愛嬌。にしても、この甘茶ポップでルックスはアラジン・セインの頃のボウイみたい~フライングV愛用だったというから不思議なバンドだ。⑪Just Another Pop Song/J.P.McCaine&The Intruders→ご機嫌なパブ・ロック。⑫Brown Eyes/Gary Charlson→ソウル・ミーツ・ポップなメロとコーラスがたまりません。アウトロのギターも抜群。⑱Get Your Radio/Secrets*→タイトルがすべて言い表してる、ピュア&ストレートなロックンロール。
うーん、もうちょっと絞るつもりだったのに、聴けば聴くほど好きな曲が増えていってしまうのは、やはり(ビジネス・センスはなかったんだろうが)愛あるポップ・ファンによるポップ・ファンのための音楽だからだろう・・・まあ、アナログ・プレイヤーとオープン・リール、ヘッドホンを装着した犬という本作のいなたくも愛らしい古典的なモノクロ・ジャケット(TITAN唯一のレーベル・サンプラー「JUST ANOTHER POP ALBUM」のジャケットに使われた写真)のイメージに反応するかどうかが、ある意味パワー・ポップ好き否かの分かれ目なのかも?とも感じる。そのレトロでどこかノスタルジックな、しかし根源的なイメージになんらかの繋がりを感知しなければ、その人はたぶんパワー・ポップの世界(ひいてはバブルガム、ガレージ・ロックなど)とはあまり縁がないのだろう(筆者はこのジャケをお店で見かけた瞬間、正体は知らなかったがとりあえず「むむ!」と思い手にとってしまったいなたいクチ)。というわけで、コステロの初期アルバムとラズベリーズ、ドワイト・トウィリーを久々に引っ張り出して聴いている今日この頃です。
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