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2007/12/28

Burial

Untrue(Hyper Dub)

この作品のベースになった(かもしれない)トラックその1:Marshall Jefferson 〝Open Our Eyes〟(88年)。レイヴ最盛期にリリースされたこのディープ・ハウス~ミニマル・テクノの古典は、無表情なベース・ラインが生み出す催眠型の反復でヴォーカルの持つソウルフルなトーンを打ち消していく。このスタイルが、後に受け継がれていったことになる。

〝音楽界のバンスキー〟ことベリアル(ライヴも一切行なわず、彼の素顔/素性を知る人間は少ない)のセカンド・アルバムに向けられる期待値は、言うまでもなく非常に高かった。彼のファースト「Burial」はThe Wireを始めとするカルトな音楽メディアによる「06年ベスト・アルバム」部門の上位を占め、ロンドンのラフ・トレード・ショップはアルバムの公式発売前から本作「Untrue」をショップの年間ベスト10にフライングで選出するほど。周囲からのこれだけ激しい待望感とプレッシャーに応える作品を作るのは、容易なことではないだろう。
一聴したところでは、前作からさほど大きな変化は感じられない。この作品も基本的には深夜のほの暗い街灯に浮かび上がる都市部の蠢きをサウンドで辿ったものであり、ムーディなシンセの規則正しい波状も、刻みまくられたビートも、ドラマチックなソウル・ヴォーカルも健在だ。映画「ブレード・ランナー」のダークな未来観とBasic Channelの間を行く世界、と言えば分かっていただけるだろうか?とはいえ、今作におけるキャンバスはより重厚に満たされている。サウンド・スケープは閉所恐怖症的に密度を増しているし、聴き分けるのすら困難なほど砕かれたヴォイス・パートは更に切迫したものになっている。ビートのドライブも総体的に激しさを増していて、ファーストが(トータルなムードは保ちつつも)1曲ごとに異なる音のスナップショットといった体の作品だったのに対し、今回は強烈なビートが作品全体を前に推し進めるパワーになっている

この作品のベースになった(かもしれない)トラックその2:A Guy Called Gerald 〝Life Unfolds His Mystery〟(95年)。ダークに形を変えていくシンセ・パート、内省的なヴォーカル、「smoke on it man」の後に、すべてがドロップ・アウトしていくあの独特な感触。

結果的に、「Untrue」は前作に較べると抜きん出たシングル曲に欠ける作品になった、と言うこともできるだろう。しかし、そのおかげでデビュー・アルバムが期せずして彼にもたらした〝ベリアル=急進的なレフトフィールド・アクト〟というレッテルを免れてもいるし、より深い暗渠の波間に乗り出すことで、このアルバムは聴き手にもっと深く聴き込むことを促す力強い作品にもなっている。

この作品のベースになった(かもしれない)トラックその3:Pole 'Tanzen'(98年). ドイツ産のこのアーティストは、プラスティックマンのミニマル・アシッド・サウンドをとことんまで削ぎ落とし、無駄のないポップネスとビートの骨と皮にまで剥き出しにしてみせた。偶然であれ意図的なものであれ、影響源のひとつと言えるかもしれない。

アルバムは、渦巻くようなせり上がりを備えた〝Archangel〟で幕を告げる。この曲は文字通り恍惚モノの楽曲で、サウンドの隆起には痛みすら感じるくらいだ。しかし、ビタースウィートなエモーションを扱ったこのオープニングにも関らず、アルバムは後に続く暗黒境めいた世界観への下降を始める。1曲1曲と聴き進むごとに、この作品はダブステップを「オシャレなアイテム」として聴いている程度のリスナーには耐えられないほどバラバラに分断され、断絶された世界へと聴き手を引き込んでいく。最もミニマルで聴きやすいパートにすら、そこには無視できない苦さやザラザラした後味、毒を含む棘が隠されているのだ。アルバムの中核を成すトラック〝Etched Headplate〟のイントロには、強情で聞く耳を持たない不良息子をもっと寛容に扱ってやってほしい、と願う母親の思いがサンプリングされている。「息子は誰を傷つけるつもりもなかった/あの子は愛情に満ちた人間なのよ、本当は…」という実に淡々と情熱に欠ける彼女のコメント。これは、本作随一とも言える奇怪さを誇る捻じ曲がったベース・ラインに乗って登場する「like angels」のプロセスされたコーラス・リフがこちらの脳裏に焼き付く前に耳に入ってくる、最も印象深いフレーズだ。暗く、心に妙なしこりを残すこの楽曲はアルバム中最もパワフルなトラックだし、優れた可能性を持っているにも関らず母の言う「天使」(息子)は落ちぶれて道を踏み外した、翼を折られた堕天使であることを告げている。最後になって、このダークな作品にもようやくオプティミズムの光が訪れたかに思える。アルバム最終曲〝Raver〟にえんえんと繰り返される「dream life」の至福感あふれるヴォーカル・パート。過ぎた良き日を懐かしむ雰囲気は希望を感じさせすらするものの、やはり楽曲には曖昧なムードが残る。

80年代レイヴ・シーンの残響が歴史の墓場から舞い戻り、現イギリスの荒んだ公団住宅の中に蘇生したかのように、ベリアルのファースト・アルバムは親しみやすさと嫌悪感が入り混じる存在として登場した。しかし、この作品は鎮魂歌であると同時にアルカディア的な理想境を歌ってもいるし、イギリスという国が一般人の手で培われ愛された音楽によって鼓舞され、またそんな風に音楽を愛する集団が生み出してみせた草の根パワーに権威側が恐れをなした、ベリアルのひとつ前の世代への憧れも感じる(その集団の存在は、現英国政府が進めている社会再編成の中で掻き消されてしまったが)。この作品は、たとえば70年代後半のスペシャルズやリントン・クウェシ・ジョンソンの音楽がそうだったように、公民権を剥奪され不満を募らせた庶民達のためのサウンド・トラックとしての役割を果たしているのだろう。状況は30年が経った今も変わっていない。ただ、音楽ジャンルとしての呼び名が変わっただけなのだ。 決して完璧なレコードとは言えないが、それを言ったらファーストも同じ事。しかし、前作同様この作品が「今、この時期に」作られた音楽の中で最も重要な音楽であることに変わりはないし、過去からの音楽的影響や引用は明らかなものの、2007年現在作られている音楽の中で真の意味で「現在」を反映した数少ない音楽と言えると思う。必聴の、素晴らしい1枚。

Hyper Dub公式サイト=http://www.hyperdub.net/

ベリアルを脱兎チェック!


2007/12

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