「リリースはちょっと前になるけど、過小評価&看過されたままなのはもったいない」――そんな風に感じる作品、リリース・タイトルは増える一方・注目や話題もすぐに新しい作品に移ってしまう昨今、誰もが1枚や2枚は思い当たるんじゃないでしょうか?というわけで、「沈んだままのお宝」をサルベージする不定期レヴュー=Sunken Treasureの始まり始まり~。第1回目は、アヴァンギャルドの雄2作をご紹介します。
「アンダーグラウンド・ミュージックにはまる良いきっかけが欲しいなあ・・・」、そんな風に考えている人に、朗報をお届けしようと思う。ここに紹介する2枚のアルバムは、難易度は確かに高いものの、アクセス不可能というわけではない。幅広くだけではなく、より深~く音楽の世界に足を踏み入れてディグしたいと願う人に、これはもってこいのサンプル的イントロ作品になるんじゃないだろうか。と言っても、2作は大西洋をまたいでそれぞれイギリスとアメリカから登場したもので、内容的にも、また音楽スタイルの面においても、直接的な繋がりがあるわけではない。ただ、現在のメインストリーム・ロック文法の中であまり頻繁に取り上げられることのない古いタイプの音楽――弦楽や管楽器をフィーチャーしたアヴァンギャルド・サウンド――をモダナイズしていく両者のアプローチの仕方に、ある種の類似性は感じられるはずだ。
UKサイドに立つのは、Volcano The Bearを経て、現在 ワン・アンサンブルで活躍中のダニエル・パッデン。かやたUSサイドに控えるは、名門スリル・ジョッキーから、ロブ・マズレク率いるエクスプローディング・スター・オーケストラ。言うまでもなく、ロブ・マズレクはシカゴ・アンダーグラウンド~アイソトープ217等を経て、彼自身が率いるこのアート・アンサンブルにたどり着いたベテランだ。両者のカラーは異なるもので、敢えて言えば前者はチェンバー・ミュージック、後者はアフリカン・フュージョン系ビッグ・バンドと言えるだろうか。
ワン・アンサンブルは、もともとはダニエル・パッデンのソロとして始まったものの、現在はメンバー4人に発展(Pickled Egg所属のNalleからコア・メンバーが参加している)。通算3枚目になるこの作品は、恐らくこれまでのワン・アンサンブルの作品中もっとも優れた、まとまりのある出来と言えるだろう。サウンド的には、この作品はたとえばヨーロッパの国々など、古い歴史を持つ土地特有のどこか重苦しい閉鎖的な空気と、抑制された美しさとを誇っている。たとえば、古めかしい真空管ラジオに耳を傾けながら、ラジオの上に埃が淡々と降り積もっていくのを眺めているような、時の止まった感覚とでも言おうか。あるいは、完成せずに終わった70年代チェコ製アニメーション映画の架空のサントラがあるとしたら、もしかしたらこんな感じだったかもしれない?と思わせるような、懐かしくもどこか不気味で、エキゾチックな空気がある。
アルバムの1曲目「Joker Burlesque」は、シンプルなリフが寄せては返す、荘厳なモーダル構造から始まる。しかし、ミュージック・コンクレートからカズーが鳴り渡るフリー・スタイルなオーケストラ部へ滑らかに移行していく手前で、その導入パートは酔っ払ったような不協和音の渦へと発展していく。ある意味、この楽曲はこのアルバム全体のサウンド/展開を要約したような構造を持つ曲、と言えるだろう。「Resonant Kings」はフォーキィでヒプノティックなギター・ラインが印象的なトラックだが、火を吹くようなヴァイオリン・ソロの激しい勢いに引っ張られる形で、その響きもやがて舞い狂い始める。「Fog And Tumble」では感覚が局地的な(文字通り)濃霧の中にワープさせられ、「Another Cup To Drown」のノクターンめいたリフ(ビル・キャラハンの「Night」に不思議なくらい酷似した反復スタイルだ)が、どこかぎこちない子守唄風なトーンへビルド・アップしていきつつ、アルバムに幕を下ろすことになる。
ぱっと聴いただけでは、この作品は単調でモノトーンな味わいの作品と感じられるかもしれない。実際アルバムの大半はインストだし、しかも、作品1枚を通して多かれ少なかれ同じ楽器編成が敷かれているので、そう感じる気持ちも分かる。しかし、繰り返し聴くうち、聴き手はこの作品から一級品のクオリティ、崇高なまでの可変性、そしてこの音楽の作り手が素晴らしいライヴ・アクトに違いないと伺い知ることができる・・・そんな、じわじわ効いてくる、スラブ民族音楽風の哀歌が鳴っている作品だ。
対して、チャールズ・ミンガスとサン・ラが鎮座するアヴァンギャルド星座が浮かぶ宇宙空間に、壮大なるビッグ・バン・セオリーを打ち立ててみせたのがエクスプローディング・スター・オーケストラになる。作品はふたつの組曲に挟まれる構成で、そのひとつである緊張感あふれる「Sting Ray And The Beginning Of Time」は、15人編成のポスト・ロック・スーパースター勢によるビッグ・バンド(ジョン・マッケンタイア、ジェフ・パーカー、ケン・ヴァンダーマーク他)が、好きな楽器を手におのおのやりたい放題やりながら、ストラヴィンスキー風なクレッシェンドに盛り上がっていく様で堪能させてくれる。
繋ぎの役目を果たす「Black Sun」は、続く組曲「Cosmic Time For Sleeping Lovers」が始まる前に、いわば一息つく心の余裕を聴き手に与えれくれるような、瞑想めいた安らかなコアを備えている。ここから先の展開は、前述したサン・ラの影響がかなり強く出てきているが、ジャッキー・グリーソンを思わせる50年代調エキゾチカ風なところもある。「Cosmic~」の後半は強烈な勢いで始まるものの、夢遊病めいたドリーミィな雰囲気を湛えながら、作品は徐々にフィナーレへと達していく。ビッグ・バンの爆発を経て収縮し、温度を下げていくこの天体は、「無限」に向かってそのまま漂っていくのだろうか。
メインストリームのロック、そしてインディ・ミュージックの双方がますます先の見えるものになってきている昨今、アンダーグラウンド音楽と前衛は、いわば実験性の最後の砦/領域と言える。しかし、これだけのクオリティを誇る作品に触れれば、聴き手は終わることのない音楽の喜びを与えてくれる世界への入り口に立つことができるはずだ。
ワン・アンサンブルとエクスプローディング・スター・オーケストラを脱兎ゲット!
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