ドラムン・ベースと言うと90年代半ばの隆盛と比較すると斜陽になってしまった感が否めない。もちろん今でもキャリバーやマーカス・インタレックスなどエキサイティングな才能は健在だが、ロニー・サイズやゴールディがチャート上位を占めたりマーキュリー・プライズを受賞したりと正にイギリスを席巻した当時と比べるとずいぶん地下に潜ったもんだな、と思う。
ドラムン・ベースの急激な盛り下がりの理由、推測不能だった訳でもない。まずリズムが単調と言う批判。ヒップホップやハウス、テクノと言った他のダンス・ミュージックと違って、120~170の高速BPMが基本ルールのドラムン・ベースは、同じビートが延々と繰り返されているだけの単調な音楽に聴こえてしまう嫌いがある。それは否定しない。実際、自分も当時を振り返ると話題のパーティを一巡した後はさっさっと違うものを追い求めていた。加えて、流行モノの常としてトレンドに乗って勢いだけで作られた作品が雨後のタケノコのように登場。ダンス系でアルバムを聴き通させるようなものは少ないが、シングルでも厳しい作品が乱立するようになり、無邪気なパーティ・ゴアーだった自分にとってドラムン・ベースはあっと言う間に死んだ存在になってしまった。
そんなある時に出掛けたパーティで完全に打ちのめされた曲がハイ・コントラストの初期ヒット「Return of Forever」。クラシカルなくせに攻撃的なドラムン・ビートの洪水と、それと共に押し寄せる美しいメロディに狂ったように踊りまくった。ミーハー心でアーティスト写真をチェックしてビックリ!そこに写るのはほっぺのちょっと紅い、もわもわヘアーにちんまり小顔の華奢な男の子(当時22歳だったようですがエフゲーニ・キーシン系の童顔ゆえに10代に見えた)。ドラムンのアーティストと言えば当時は平均やや年齢高め、ルックスは二の次との認識を(勝手に)抱いていたので、ハイ・コントラストの所属レーベルホスピタルの主トニー・コールマン(ロンドン・エレクトリシティ)以上に「アイドル出現?!」と一瞬浮き足立った。それはさておき、そのハイ・コントラストことリンカーン・バレットがスタインバーグの音楽ソフト「キューベース」を使って見よう見真似で曲作りを始めたのは17歳の頃で、レコード・デビューの3、4年前。そんな短期間でここまで完成度の高いアンセムを作るのか、若いって凄いな~と感心させられたのも今となってはかなり昔のことに思える。
前作「High Society」から約3年、作目の今作ではリンカーン君も早27歳。見た目もすっかり落ち着いた。果たして肝心の音は…期待以上の仕事です!円熟味とシャープさが同時に増大。最初の一音からカッ飛びました。先行12インチ・シングルの「If We Ever」で感動の幕開け。ヴォーカルのダイアン・チャールマンはリンカーンのアイドル、ゴールディのヒット曲「Inner City Life」の歌姫で、悲願達成にノリノリな感じが伝わって来る。続く「Everything’s Different」は今作の一つのコンセプトが現れている力作。「全て変わってしまった/みんな行ってしまった/どうして?誰か教えて」と繰り返される歌詞は、消え去ったドラムンDJに向かって「また一緒にやろうよ!ドラムンはまだまだこれからだよ!」と訴えるリンカーンの生の声だ。もちろん単純に訴えるだけでなく、ドラムン・ベースの可能性、更にはその発展形も本作は示している。
例えば60sサイケ・バンド、アイアン・バタフライの名曲「In-A-Gadda-Da-Vida」のリミックス。ホワイト・ストライプスの「Blue Orchid」のリミックスも未だに手離せないのだけど、選曲センスはダンス系の必須条件だと思う。以降、メロウな出だしの「Kiss Kiss Bang Bang」、エクスタティックな「Forever And A Day」に至るまで全くスキのない構成で押しまくり、ダレがちになるアルバムの中盤には本作のハイライト、オシャレD&Bな「Metamorphosis」をドロップしてキメる。終盤の「Chance」には「火の玉ロック」で有名な「ザ・キラー」ことジェリー・リー・ルイスの妹、リンダ・ゲイルが登場。ヴァン・モリソンとのデュエットで知られるカントリー・ミュージシャンでドラムン・ベースとは真逆の存在だが、違和感など皆無。意外な人選は50sからコンサート・エージェントをやっている父親の影響らしいが、やる事が一々憎いです。ドラムン・ベースを斜陽と言ったが、ここにはそんなネガティヴなヴァイヴは微塵もないし、楽曲・構成・音響と三拍子揃ってハイ・クォリティ&ハイ・スピリット。真の才能には世の浮き沈みなんて関係ない。
最後に今更ながら大切なことを一つ付け加えたい。ダンスものの常として、本作が本領を発揮できるのは現場、強固なサウンドシステムに囲まれたクラブのフロアだ。フロアに出てダンサーズ・ハイを感じるまで踊る。必ず自分が音と一緒になれる瞬間が訪れる。踊って踊って踊り狂い、もう足が動かない!と思った瞬間、音とビートと共に舞う自分が実感できたらホント最高。単調と敬遠されるドラムンのビートだが、要は乗ったもん勝ち。ビリーズ・ブート・キャンプみたいと言ったら可笑しいだろうか?ビリーに煽られもたついた体を懸命に動かし続けると中毒の如くハマって行く・・・ドラムンのビートも全く同じで重い足腰を上げ下げしている内に止まらなくなる。「Tough Guys Don’t Dance」にはビリー級の体躯のタフ・ガイも踊り狂います。本年度ベスト・ドラムン・ベース・アルバムの最右翼!
ハイ・コントラスト「Tough Guys Don’t Dance」を脱兎ゲット!
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