解散からはや10年と思うと「もうそんなに?」と驚いてしまうが、ニューヨークの暗黒番長スワンズを葬った後にマイケル・ジェラが立ち上げたプロジェクトのひとつ、エンジェルズ・オブ・ライトもこれでアルバム通算6作目。レーベル・メイトでもあるオーガニック・サイケ集団=アクロン・ファミリーとのコラボ(これも名作)から数えると2年ぶりになる本作は、そのアクロン一家を再びバッキングの中核に据え、スワンズ周辺~ニューヨーク・アンダーグラウンド・ミュージシャン人脈によるサポートも援用しながら、これまでになく多彩な音世界を作り出している。
ソングライティングのベースにあるのはシンプルなオールド・ブルースの反復とフォークのストーリー・テリングで、人間の暗部(死、怒り、暴力)を歌うマイケル・ジェラの、線が異様に太く、しかし基本的にトーンそのものには変化がない声(時にチャントのように聞こえる)が通されることで、どの曲にも強い緊張がみなぎる。スワンズの頃の彼の歌唱に較べればよっぽど「歌」を聴かせるスタイルなのだが、ブルータルなほどニヒルに感覚にぐいぐいGをかけてくる、アーミー・ナイフのように威圧的な歌声を聴いているとこちらも精神的に疲労させられる。しかし、たとえばレナード・コーエンやジョニー・キャッシュ、ニック・ケイヴの作品を聴くのと同様、ふだんやりすごしている闇に正面から向き合わされた時に感じるあの逆方向のカタルシスがあるからだろう、その疲労感は心地よく、たとえばこのアルバムの④⑦など、何度でも繰り返して聴きたくなる。ゆえに、エンジェルズ・オブ・ライトの作品を「暗い」とは思わない(ブルーグラス風な軽妙で明るいメロディで「メアリー・ルー、ファック・ユー!」と歌う恨み節⑩、デリック・トーマスの病み可愛いアート・ワークなど、ユーモア・センスもあるし)。本当にこちらの心を暗くさせる作品というのは、想像力もアートも知性も感じられない、怠惰な音楽のことじゃないだろうか。
ソロやエンジェルズ・オブ・ライトではロック的なサウンドは避けている・・・と常々語っているマイケル・ジェラだけに、音のトーンは総体的にシンプルでアコースティック。ピアノ、ストリングス、ホーンも美しい彩りを添えているし、繊細なパーカッション、女性ヴォーカルのコーラスなど、的確に配された音の数々がこれまで以上に厚みと奥行きのある音作りを生んでいる。異教徒のスピリチュアル・ミュージックとでも呼びたくなる迫力に引き込まれるが、若いアクロン・ファミリーからの影響もあるのだろう、「We Are Him」にはエレキやドラムスをフィーチャーしたパワフルなロック・チューン~サイケデリックな広がりもあり、その解放感が③⑨などにマイケル・ジェラ流ポップ・ミュージックの趣きを与えている(⑨なんて、ビーチ・ボーイズみたいだもん)。闇と光のコントラストがジャストなバランスで調和したこのアルバムは、恐らくエンジェルズ・オブ・ライトの作品群の中でももっともアクセスしやすいものだと思う。80年代から我が道を貫き、個の音楽を生み続けているマイケル・ジェラ(とヤング・ゴッド・レコーズ)の声に、これを機にぜひ耳を傾けてほしいと思う。
エンジェルズ・オブ・ライトの「We Are Him」を脱兎ゲット!
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